書評『Q&Aでわかる ノンメタルクラスプデンチャー』谷田部 優

HYORON Book Review - 2019/04/20



レビュアー/谷田部 優
(東京都文京区・千駄木あおば歯科 東京医科歯科大学歯学部 臨床教授)

ノンメタルクラスプデンチャーの研究でリードする講座の書籍

 本書の編著者である大久保力廣教授は,2013年に日本補綴歯科学会が発行したノンメタルクラスプデンチャーに関するポジションペーパーの主要な執筆者である.大久保教授が主宰する鶴見大学歯学部有床義歯補綴学講座は,日本においてポリアミド系の熱可塑性樹脂導入のきっかけを作った講座であり,現在も多くの関連するテーマの研究,論文を発表しており,この分野で世界をリードする講座の1つである.その講座の教授らにより執筆された本書は,非常に示唆に富む内容となっている.

 ノンメタルクラスプデンチャーは簡単に装着できるように思われがちだが,パーシャルデンチャーの基本的な設計の考え方を正しく理解していないと術後のトラブルに悩むことが少なくない.本書は,随所に研究から得られた具体的なデータを示して,臨床での疑問にわかりやすく答えている.ノンメタルクラスプデンチャーは研究より臨床が先行している義歯であり,十分なエビデンスがない中,学術的な裏付けに基づいて書かれた本書は貴重な成書である.

「わかる」「できる」ようになる構成

 本書は Q&A 編と臨床編の2部構成になっている.第Ⅰ章では,ノンメタルクラスプデンチャーを正しく理解するために,Q&A 形式で設計のポイントや調整,修理の方法など,普段の臨床でわからないこと,疑問に思うことを項目立てて紹介している.材料の選択,適応症の選択,前処置の方法,印象採得の注意点など,臨床で見落とされがちだが術後に大きく影響する項目についても,わかりやすく解説されている.

 実際,術後トラブルにどのように対処したらよいか悩んでいる臨床家も少なくない.義歯がゆるくなった時の対応などは,通常のメタルクラスプの調整のようにはいかないが,対処法が丁寧に書かれている.

 第Ⅱ章は,欠損形態別の症例や応用症例,長期経過症例など,実際の症例を豊富な写真を用いて呈示している.それぞれのシチュエーションでどのようにノンメタルクラスプデンチャーを活用したらよいかを実際の臨床例で学ぶことができ,設計を考える際の参考になる.紹介されている17症例の中には,適応を誤った結果,術後経過が良くなかった症例が示されているが,こういったトラブル症例から学ぶことは多いのでありがたい.また,ところどころに挿入されている「コラム」も臨床の引き出しを増やすのに役立つ情報があり,おもしろい.

これから始める,すでに始めている歯科医師や歯科技工士に

 外観に触れる部分に金属のクラスプが見えることは,何歳になっても気になるものである.ノンメタルクラスプデンチャーは,通常のパーシャルデンチャーとほぼ同じ設計で審美的に満足度の高い義歯が製作できるという大きな利点がある.ただし,そこには適応,不適応がある.この本を理解していれば,ノンメタルクラスプデンチャーを希望される患者さんが来院した時に迷わず適否を説明できる.

 ノンメタルクラスプデンチャーを知りたい,これから始めたい,すでに行っているが満足いかない,といった歯科医師はもとより,より良い義歯を提供したい歯科技工士にとっても,座右の書となることは間違いない.


PDF版

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加