書評『増刊2018 CAD/CAMレジン冠』須崎 明

HYORON Book Review - 2018/11/20



レビュアー/須崎 明
(愛知県北名古屋市・医療法人ジニア ぱんだ歯科)

日本人による日本人のための本

 本書の特徴を一言で表現すると「日本人による日本人のための本」といえよう.日本では CAD/CAM用ハイブリッドレジンブロック(以下 CAD/CAM 冠)を用いた歯冠修復は,世界の中でも最も多く臨床に用いられている.

 この背景には,日本の国民皆保険制度のもと,本修復法が保険収載されたことが大きな要因となっている.だが,ジルコニアをはじめ,CAD/CAM によるさまざまな材料を用いた修復法がある中で,CAD/CAM冠は物性や接着操作の点で決して容易な歯冠修復法とはいえない.

 そのような流れの中で,本書では本修復法の日本での医療背景はもちろんのこと,本修復法の失敗例から成功のポイントまで,文献考察や研究データ,臨床例を中心に,第一線で活躍している研究者や臨床家だけでなく,歯科技工士の目線でも詳細に解説されている.

 さらにはメーカーにより,CAD/CAM 冠ブロックの最新情報も紹介されている.ここでは各メーカーのブロックのラインナップや開発コンセプト,特徴がわかりやすくまとめられており,一定の基準をクリアしつつも,CAD/CAM 冠ブロックはそれぞれの特色を持ち,進化していることが理解できた.これには先に述べた過去の日本の CAD/CAM 冠臨床のトラブルを参考にし,製品開発をしている背景が影響していると推察される.

CAD/CAM 冠臨床,成功の秘訣

 CAD/CAM 冠臨床を成功させるポイントは「確実な支台歯形成と接着操作」とよくいわれる.日々の臨床の中では,それらを基本としつつも,本書で紹介されている最新の情報を取り入れながら,支台歯形成を行い,CAD/CAM 冠ブロックを選択し,CAD/CAM 冠を作製し,装着していくことが,CAD/CAM 冠臨床を成功させる秘訣であると実感した.

 本書によると,CAD/CAM 冠の開発当初のトラブルは脱離だけでなく,審美性の低下や摩耗さらには破折も多く認められたとされている.最近は CAD/CAM 冠ブロックの物性の向上から,脱離がトラブルの中心となっており,そのトラブルは装着後,短期間(数カ月から2年程度)に発生していると述べられている.このような結果から,短期間で発生するトラブルを防止すれば,CAD/CAM 冠臨床は長期の予後安定が期待できる,ということになる.

 また,CAD/CAM 冠の装着には確実な接着が必要不可欠となる.本書では歯面処理材を使用したセルフアドヒーシブレジンセメントとプライマー併用型接着性レジンセメントの有効性が紹介されていた.保険診療においては装着材料のコストも重要になるが,CAD/CAM 冠の脱離を回避するためにはコストだけにこだわるのではなく「良好な予後を得るための投資」として装着材料を選択する必要があると感じた.

世界の歯科医療にも続く

 日本人がこれまで行ってきたCAD/CAM 冠臨床から学び,それを自ら考察し,軌道修正して本修復法の質を向上させ,日本人自ら本修復を実践し,成功させていくことが,予後の良好な治療法を確立する近道となるのではないだろうか.それだけではなく,一人ひとりの臨床家が,保険診療の中で CAD/CAM 冠を算定して実績を伸ばし,医療保険制度に本修復法の有用性をアピールすることが,さらなる適応拡大につながると思われる.

 これは日本の歯科医療のためだけでなく世界の歯科医療に続くと,筆者は本書を拝読して強く感じた.


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