書評『成功するインプラント治療の基本原則』上濱 正

HYORON Book Review - 2017/10/20



レビュアー/上濱 正
(茨城県土浦市・ウエハマ歯科医院 特定非営利活動法人日本顎咬合学会・前理事長)

過去から未来を考えたインプラントの原理原則を解説

 インプラント治療がわが国に導入されて約30年が経過し,現在では日常歯科臨床の基本となってきた.思い起こせば,1991年の日本歯科大学での講習「オッセオインテグレーションの概念」における電子顕微鏡写真に目がくぎ付けになったことが,昨日のことのようである.その後,あらゆる症例にインプラント治療が応用され,患者の口腔機能の回復に貢献してきた.

 このような歴史の中で,このたび上梓された本書を一読したが,「約30年のインプラント補綴臨床から,安心・安全に機能回復させ,予後の良いインプラント治療を展開するための原理原則を次世代に伝えたい」との著者らの情熱を強く感じる.

 特に今後の世代に向けて30年間の臨床のエキスを抽出し,タイトルどおり“Step by stepで みえる・わかる”詳細な写真・解説がなされており,材料や術式ばかりが論じられる書籍が氾濫している中では,「今後のインプラント補綴臨床のバイブル」となりうる内容である.

研究者と臨床家が総力をあげてインプラント補綴臨床に取り組む

 本書は大きく2つのPartからなり,「PartⅠ まず最初に考えること,知っておきたいこと」では,あらゆる歯科医療分野に精通し,海外でも活躍している渡辺隆史先生が「本当にインプラント治療が必要か?」を問い,インプラント治療の原理原則を解説し,さらに「骨代謝を知らずにインプラントは語れない」と治療後も変化を続ける骨に関して,エビデンスベースでわかりやすく横瀬敏志明海大学教授が解説している.

 続く「PartⅡ インプラント治療成功への31のStep」では,美しい写真,わかりやすい図表,読みやすい解説,Chapterごとのまとめ・チェックリストで理解を深めるとともに,臨床のガイドとしても大いに利用できる構成になっており,「これから始めたい人・トラブルをなくしたい人」には最適の書籍である.

 明海大学歯学部の龍田恒康准教授(口腔外科分野),林丈一朗准教授(歯周病学分野)らの科学的根拠に基づいた解説は必見であり,次世代を担う臨床家として長谷川雄一先生が新たな目線で解説していることも若手歯科医師には斬新である.

 また,CAD/CAMによる補綴物製作が主流になってきた現在ではあるが,咬合,咀嚼などの口腔機能を考えると,一流の歯科技工士の匠の技は必要不可欠であるといえる.監修の河津 寛先生に信頼され,口腔機能・審美回復技工を担当する渡邉一史先生,荻原拓郎先生の原理原則論を理解し,臨床に応用されている姿には脱帽である.

最終到達目的は「人生を健康,幸福にお送りいただくこと」

 監修の河津 寛先生(明海大学歯学部臨床教授・生涯研修部部長)には30年来のご指導をいただいているが,先生は30年前にすでに上顎前歯部1歯欠損の症例,上下顎に28本のインプラントを応用した補綴治療,すなわち1歯から28歯の欠損に対してインプラント補綴臨床を応用されてきたわが国の第一人者である.OPEの見学や患者様との会食など多くの場に立ち会わせていただき,感謝とともに尊敬されている姿を目のあたりにしている.

 以前からインプラントは治療手段の1つであり,最終到達目的は「人生を健康,幸福にお送りいただくこと」と指導されており,歯科医師,歯科技工士,歯科衛生士をはじめ患者の教育にも情熱を注がれている.

 未来型の本書で若手は教科書として,ベテランは診療ガイドとして利用され,患者の健康・幸福に貢献されることを期待する.


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