書評『寒天アルジネート連合印象による誰でもできる簡単精密印象』押見 一

HYORON Book Review - 2017/08/20



レビュアー/押見 一
(鹿児島県姶良市/イシタニ小児・矯正歯科クリニック日本小児歯科学会 専門医・指導医)

 この時期に著者が本書を上梓したということの意味.CAD/CAM が歯科臨床に登場して久しい今だからこそ,この故吉川郁司先生が考案した寒天アルジネート連合印象が,デジタル時代に超アナログなものとして何かを訴えているように思う.

 書名の「誰でもできる」というのは,「普通はやらない」ことを著者がやってみて確認してのことであるのは,本書を少しでもご覧になればすぐにわかる.「そこまでやったのか」の連続であるからだ.しかし,寒天とアルジネートという一見頼りない素材で精密印象を採るということは,そういうことなのだ.その細かな気配りと手間を惜しむ方には,残念ながらこのやり方は合わないかもしれない.本当のことをするのは手間がかかるものだ.著者はそのことを一番伝えたかったのかもしれない.

 いくつかの小実験,たとえば4つの印象法(フワ採り,圧接採り,凹ませ採り,固め採り)は,臨床の現場をよく知っている臨床医である著者がその意味を吟味しながらやっていて,実験室のそれでなく,診療室でのものであることが読者にその価値を問うている.

 つまり最後はセメントでセットするので,そのスペースがないゼロフィッティングではだめなのである.寒天とアルジネートからの水分による石膏の吸水膨張で,模型は内側性のものはわずかに小さく,外側性のものはわずかに大きくできるので,セメントでセットするのに都合がいい.単に寸法精度が良いものが臨床で良いわけではないのだ.結論として“圧接採りか凹ませ採りが良い”というきわめて臨床的に納得のいくものになっている.

 事細かな些細なことが最後の臨床精度を左右するのは,他のことでも同じである.そのことを意識して,起こるであろう状況を執拗に追いかけてこれでもかというくらいに写真で解説しているのは,「誰でもできる」という書名から著者がこだわったのだと思う.

 たとえば,私も昔からやっている「セメント流出孔」や金属が厚い部分のワックスアップ時の「中ぐり」,アルジネート粉末の計量とビニール袋での保管,水道水の温度管理,保湿箱の中の金属製格子設置,そこに置くポストの印象の置き方,石膏注入時のカップに直前まで水を張り,それを捨てて拭き取ってから使うこと,上下顎模型の咬合器装着時の注意深い観察など.そして,それらを行った上ではじめて可能になるバイトトレーでのキャストコアとクラウンやブリッジの同時製作.「シリコーンではできても連合印象では……」と思っている方も多いと思うが,できるのだ.

 さらに,関連するステップの咬合採得における確認法として,すでにルーティーンにされている方もいると思うが,咬合紙で印記させた咬頭嵌合位の接触点をシリコーンバイトに付けてチェックしているのは,納得のいく確実なやり方である.

 また,補綴物の調整部位なども長年この印象法にていねいに取り組んできた歯科医師と歯科技工士ゆえにわかることで,私の経験でもほぼ同じである.

 全体を通して感じることは,著者が「はじめに」に述べているように,この寒天アルジネート連合印象は患者にとっても術者にとってもストレスの少ない,こんなにすごい印象法なんだということを知ってもらいたい,という願いである.肝を惜しげもなく開示してくれているのだ.

 このテーマでここまでていねいにガイドしてある実践書はなかったと思う.ぜひ今一度,この馴染みのある術式をスタッフと一緒に再認識していただきたい.

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