書評『別冊2017 これが決め手! マイクロスコープの臨床』鈴木真名

HYORON Book Review - 2017/06/20



レビュアー/鈴木真名
(東京都葛飾区・鈴木歯科医院)

 筆者がマイクロスコープを臨床に取り入れたのは,マイクロスコープ臨 床 の 第 一 人 者 で あ る Dennis Shanelec 先生(アメリカ)のマイクロサージェリーに関する講演を聞いて感銘を受けたことがきっかけである.1997年のことで,それから今年でちょうど20年になる.当時,歯科診療にマイクロスコープを使っていることを仲間に話すと,「よくやるね」などと言われたものである.マイクロスコープは一部のマニアックな歯科医師が使うツール,と見られていた.

 そんな時代なので,マイクロスコープに関する書籍などはほとんどなかった.その後,わが国の歯科分野でも徐々にマイクロスコープが普及しはじめ,「よくやるね」と揶揄していた周囲の仲間たちも,現在ではマイクロスコープのユーザーとなっている.さらに近年では,開業しようとする若い先生方を中心にその導入はますます進んでいると聞く.しかし,マイクロスコープの普及に伴い,「どんな機種を選んだらよいのか」「導入したものの,使いこなせない」といった話を耳にするようになってきた.実際,筆者の講演やセミナーを受講された先生方からそのような相談を受ける機会も増えてきている.

 それらの “ マイクロスコープ初心者 ” の悩みに答える一冊が本書である.本書は,「Ⅰマイクロスコープを導入する “ 決め手 ”」「Ⅱマイクロスコープの使い方を覚える“決め手 ”」「Ⅲマイクロスコープの臨床活用の “ 決め手 ”」「Ⅳマイクロスコープをコミュニケーションツールとして活用する “ 決め手 ”」「Ⅴあると便利!マイクロスコープの臨床がもっと楽しくなるツール」の5章で構成されている.

 特にⅠ章では,マイクロスコープを導入しようとする時に誰もが知りたい “ 特徴 ” や “ 機種の選び方 ” などが紹介されており,さらにⅡ章では,マイクロスコープを使う時の“ ポジショニング ” や “ ミラーテクニック ” の習得など,これまであまりふれられることの少なかった事項に関して紹介されている.マイクロスコープを臨床で使いこなすためには,その特徴を踏まえたうえでポジショニングを正しく理解することが必須であり,実はこの壁を乗り越えられずに挫折することが多い.

 Ⅲ章は本書のメインであり,歯内療法やコンポジットレジン修復,補綴治療,歯周外科など,臨床のさまざまな場面にマイクロスコープを応用する時のポイントについて,症例とともに提示されている.各項目はコンパクトにまとめられているので,読者は自分が関心のある項目を目次から探して,気軽に目を通すことができる.

 マイクロスコープは,“ コミュニケーションツール ” としての役割も大きい.ほとんどの機種が静止画あるいは動画の撮影機能を備えているが,それらの映像を用いて治療前後や治療の様子を患者に見せながら説明することで,治療に対する理解を深めてもらうことができる.本書でも,Ⅳ章においてそのコミュニケーションツールとしての有用性が平易に解説されている.そして,マイクロスコープ診療を効率よく行うために最適な各種ツールも豊富に紹介されている.

 このように,導入から臨床応用,コミュニケーションのための活用まで,マイクロスコープ診療に関する項目が余すところなく網羅されている本書は,マイクロスコープ診療に取り組む際の足がかりとして最適である.ご一読されることをお薦めしたい.

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