書評『感染根管治療 Retreatment』倉富 覚、

HYORON Book Review - 2019/08/16



レビュアー/倉富 覚、
(福岡県北九州市/くらとみ歯科クリニック)

『根尖病変』の焼き直しではない!

 数年前に出版された木ノ本喜史先生著『臨床根管解剖』を拝読した時に,目の前を覆っていた霧が瞬く間に消えていくような凄まじい衝撃を受けた.以来,バイブルとして「歯内療法 成功への道」シリーズが刊行されることを心から楽しみにしていたが,『根尖病変』『偶発症・難症例への対応』,そして筆者が書評を書かせていただいた『抜髄 Initial Treatment』と,ほぼ歯内療法の全項目を網羅したことで,このシリーズは完結したものと勝手に思い込んでいた.

 今回思いもかけず,シリーズの最新刊であるこの書籍を手にし,嬉しさのあまり一晩で読み切ったくらいである.ただ,最初にこの書籍のタイトルを見た時には,『根尖病変』が既に発刊されているのに,“また同じ内容の焼き直しか?”と意地悪く勘ぐる気持ちもあった.しかし,中身を見てみると,執筆者が大幅に変わっており,ほぼ別の切り口で見事にまとめられている内容であった.

 考えてみれば,『根尖病変』が発刊されてから6年近く経っており,その間にCBCT やマイクロスコープ,ニッケルチタンファイル等が瞬く間に普及し,感染根管治療の概念や臨床手技に関してのパラダイムシフトが起こったということだろう.そして,『抜髄 Initial Treatment』に対比する形での『感染根管治療Retreatment』は,一連のシリーズという観点で見ると,ごく自然な流れに思える.

 今回の書籍の各パートでは,臨床で行われているあらゆる術式とその利点や注意点が紹介されている.例えば,「根管洗浄と根管貼薬」の項では,国内で使用が認可されているほぼすべての薬剤が詳細にまとめられている.実際に自分の臨床で使用している薬剤の性質を知り,改めて他と比較検討する大変よい機会となった.

基本を押さえた次の一手として

 全体を通じて,感染根管処置に関する最新の知見や術式が随所に散りばめられているが,どの項にも共通して強調されているのは,「あくまでも基本を忠実に行ったうえで」ということである.歯内療法のTRENDを知っておきつつ,ただ「流行りだから」という理由だけでその術式を選択するのではなく,まずしっかりと基本的な事項を押さえたうえで,次の一手を考えなくてはならない,と言っているように思える.

 日常臨床のなかで,次の一手が必要な場面では,この書籍が必ず臨床家にとって大きな手助けになる.診療室のチェアの傍らに置いて,診療中にいつでも見られるようにしておきたい臨床の教科書である.

「歯内療法 成功への道」シリーズに欠かせない一書

 このシリーズに共通していえることは,たくさんの臨床的な勘所が豊富な論文的evidence で裏付けられており,非常にバランスがとれていることである.興味がある文献をそこから引いて,詳しく読んでみるのも面白いし,各項の最新のトピックスが取り上げられている木ノ本先生のコラムは必読である.

 全体的には『根尖病変』が基礎編と臨床編から成り,基本的な病理組織的概念がしっかりと学習できる内容であったのに比べ,今回の『感染根管治療』はより臨床的なところに焦点が当てられている.是非,『根尖病変』の内容を理解したうえで,この書籍を読むことをお勧めする.

PDF版

 

関連書籍

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加