書評『TADの活かし方』水上哲也

HYORON Book Review - 2019/09/04



レビュアー/水上哲也
(福岡県福津市・水上歯科クリニック)

総合歯科診療の実践に欠かすことのできないTAD

 筆者の金成先生とは20年近くの付き合いとなっているが,若い頃から非常に前向きで新しいものを逸早く取り入れ,さまざまなアイディアと類い稀なる器用さで,次々と素晴らしい臨床結果を達成した,秀でた臨床医の1人である.

 金成先生と聞いて思い浮かぶのが「総合歯科診療」である.一分野や一手法に偏ることなく,口腔内を俯瞰して総合的な治療をトップレベルで実践できているのが筆者の金成先生である.

 いまや歯周治療,咬合治療,インプラント治療を含めた,総合治療の一環として矯正治療が行われるようになって久しい.矯正治療は審美的な改善にとどまらず,咬合治療やインプラント治療において全顎的な治療効果を高め,歯の延命や予知性の向上に大きく貢献している.そしてその総合診療の中で特に活かされているのが,固定源としてのTAD(Temporary Anchorage Device,歯科矯正用アンカースクリュー)である.TAD は現代の矯正治療にとって偉大な発明のひとつであるが,このTAD についてわかりやすく,そして詳細なノウハウについて書かれた書籍は少ない.

TAD の応用方法が詳述された書籍

 このたび上梓された本書は,いまや矯正治療における絶対的な固定源としての地位を確立したTAD の活用方法や注意点,そして豊富な臨床例が掲載された,日常臨床に非常に役立つ書籍となっている.

 本書を読むと,TAD の基本的な使い方や失敗を防ぐための臨床上の注意事項のみならず,TAD を応用し総合歯科診療を実践した素晴らしい臨床例が満載していることがわかる.その症例のひとつひとつは細部にわたり行き届いた治療となっており,結果として,歯のポジション,アーチフォームなど,さまざまな要素を含め,いずれも素晴らしい仕上がりとなっている.理想を述べることはたやすいが,実際の臨床では妥協的な治療とならざるを得ないことが多い中で,これほどきれいな仕上がりをみせてくれる臨床医は数少ない.

 本書の特徴を紹介すると,以下のとおりである.

1 .トラブルのない,TAD の安全な使い方がわかりやすく書かれている.
2 .MTM(LOT)から全顎症例まで,TAD の幅広い臨床応用をみることができる.
3 .特にMTM では,日常臨床で多々必要とされる圧下,アップライト,遠心移動,不正咬合などにおいてより効果的な用い方,矯正力のかけ方,矯正器具の使い方が文献と自身の経験をもとに書かれている.
4 .歯周治療における矯正治療とTAD を応用した治療の組み立て方が理解できる.
5 .インプラント治療において,いつも悩んでしまう矯正治療とインプラント治療の組み立て,すなわち順序立てがわかりやすく解説されている.

 TAD の活かし方がわかりやすく書かれており,本書は日頃から矯正治療を手掛けている先生方にとっても,またこれから矯正治療に取り組む先生方にとっても,双方に役立つ内容が満載された書籍である.ぜひ一読していただきたい.


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