書評『増刊2019 安心・納得の歯科局所麻酔ガイドブック』立浪康晴

HYORON Book Review - 2019/11/07



レビュアー/立浪康晴
(富山県射水市/医療法人社団 星陵会 たちなみ歯科口腔外科クリニック,東北大学歯学部 非常勤講師)

局所麻酔は歯科臨床の要

 私が大学病院の歯科麻酔科に入局した際,「局所麻酔下の手術が成功するか失敗するかの鍵は局所麻酔にある」と教えられました.歯科治療において局所麻酔の使用頻度はきわめて高いと言え,一般歯科開業医では局所麻酔をしない日はないでしょう. 

 「歯科治療のストレス評価:患者はどの歯科治療がいちばん怖いのか?」(間宮秀樹,一戸達也,金子譲 著,日本歯科麻酔学会雑誌,24(2):248-254,1996.)という興味深い論文があります.本論文には,患者にとって一番怖いのは埋伏歯抜歯でも膿瘍切開等の小手術でもなく,「無麻酔による有髄歯の切削」であったこと,また歯科医師が考えている以上にスケーリングや根管治療において患者がストレスを感じていることが述べられています.

 局所麻酔はそれ自体がストレッサーではありますが,無痛的に行えばその後の処置のストレスは大きく軽減することから,積極的に局所麻酔を行い,ストレスフリーな質の高い歯科治療を提供すべきです. 

 その反面,歯科治療に関連した全身偶発症の約40%が局所麻酔時に起こっている(日本歯科医師会雑誌,63:1297-1301,2011.)ことも事実です.今,超高齢社会を迎えたわが国では,高齢者・有病者に対して安全な歯科治療を行うことが求められています.

安心・安全な歯科治療のために 

 安心・安全で,良く効く局所麻酔を行うにはどうしたらよいか? さらに高齢者・有病者・小児・妊婦にはどのように対応するのか? 事故・偶発症が起きたときにはどのように対処するのか? 医療事故と訴訟については? といった堅いテーマから,「お酒に強いと局所麻酔が効かないって本当ですか?」や「局所麻酔薬は温めると痛くないって本当ですか?」などの素朴な疑問に答えるコラムまで,臨床家が知りたいすべてがこの1冊の中にあります.

 局所麻酔の手技自体には大きな変化はありませんが,歯科を取り巻く環境は大きく変化しています.これらに対応しているのが本書なのです.

 局所麻酔は,これほどまでに重要な日常臨床の基本手技であるにもかかわらず,今までは師匠から弟子に伝授される職人技的要素が強く,教科書以外の成書はあまりありませんでした.

 先日,岡山で開催された日本歯科麻酔学会総会・学術集会において,本書を編集された松浦信幸先生が教育講座「下顎孔伝達麻酔の考え方」と題する講演を行いましたが,立ち見が出るほどの大盛況でした.このことを見ても,上記の現実を裏付けているのではないか,と感じました.

 日本歯科麻酔学会を代表するリーダーである一戸達也教授監修,松浦信幸准教授編集のもと,わが国の歯科麻酔学を代表する豪華執筆陣により最新のエビデンスを元に書かれているため,大変読み応えがあり,歯科麻酔専門医の私にとっても大変勉強になりました.卒後間もない研修医からベテランの先生まで,それぞれの立場で学びがあるに違いないこの1冊を是非お勧めします. 

 
PDF版

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加