書評『そうだったのか! CR修復[増補改訂版]』田代浩史

HYORON Book Review - 2020/05/11


レビュアー/田代浩史

(静岡県浜松市/田代歯科医院 東京医科歯科大学歯学部 臨床教授)

 3年前に出版された本書の『第1版』は,日々の臨床におけるCR修復の悩みに応える臨床即応型のエビデンスブックとして,日常臨床において疑問を持った際に紐解き,学び直す機会が多い.
 CR修復の臨床的なテクニックにのみ偏らず,最新の学術的根拠が整備された構成により,CR修復の各ステップにおいて押さえておくべきポイントが理解しやすい文章で解説されている.
 著者であるDr.須崎の「ぱんだ歯科」における臨床写真は,日々の臨床で悩む場面にしっかりとフォーカスされ,充実した術中写真によりチェアサイドで臨床を見学しているかのような臨場感がある.

 さらに今回の『増補改訂版』では,日々進化する接着修復材料の新規導入に関する理論的根拠と,その臨床的特徴が追加情報として収載され,臨床現場での材料選択への具体的指針となる.
 若手歯科医師にとって理解しやすい図表が多数追加され,美しい新規臨床症例とともにその裏付けとなるCR修復に必要な理論を同時に吸収できる構成となっている.
 近年の歯科臨床のトレンドである拡大視野下での精密歯科診療に関しても,CR修復の臨床で必要な拡大率と使用場面の具体例が示され,さらに,CR修復の完成度を高めていくための心構えもコラムとして収載されている.

 また,CR修復における最大の難関である臼歯部2級修復については「やりたくないのに,やらなくてはならない2級CR修復 」として,臨床ステップのポイントが理解しやすい臨床写真とともに詳細に解説され,多くの歯科医師にとって臨床での疑問点を解決する糸口を提供してくれている.
 さらには,咬合様式に合わせた2級CR修復の窩洞形態や咬合調整の術式が明快な図表とともに示され,臨床で多くの難症例を経験したDr.須崎ならではの“包括的な視点からCR修復を捉える必要性”を説いている.

 保険診療としてのCR修復と,自費診療として提供されるCR修復との具体的な診療内容の違いも公開され,チェアサイドでの患者説明に必要な情報が整理されているところも本書の大きな特徴と言えよう.
 このようなCR修復を幅広く応用するために必要なサイエンス,テクニック,クリニックのマネージメントまでもが網羅された臨床書籍の存在はきわめて重要であり,多くの歯科医師にとって臨床導入のハードルを下げてくれる内容である,と感じた.

 特に最終章における正中離開症例への対応に関しては,多くの症例が原因別に収載され,外科的小手術による対応,間接法によるラミネートベニア修復対応(フルベニア・パーシャルベニア),直接法によるダイレクトベニア修復対応まで,臨床状況に合わせた術式選択の「Dr.須崎のガイドライン」が示されている.
 増補改訂版では,最新マテリアルを活用した新たな歯間離開症例への対応方法が追加されており,多くの読者に直接法CR修復による審美改善の可能性を広げてくれることであろう.

 多くの歯科医師にとって取り組みやすい診療内容である「CR修復」だが,術者の経験に大きく左右され,術式を一般化し難い診療領域でもある.
 日々悩みながら臨床現場に立つわれわれにとって,経験豊富な著者がこれまでの臨床経験の中で同じように苦労し,克服してきた取り組みを,寛容に公開してくれる本書の価値を強く感じている.

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