書評『さあ,どうしよう? 対応に困る患者さんたち』高橋英登

HYORON Book Review - 2017/05/20



レビュアー/高橋英登
(東京都杉並区・井荻歯科医院)

 私は1979年(昭和54年)に歯科医院を開設して以来,約40年の歳月が流れた.今その「歴史」を思い返してみると,本当にさまざまなパーソナリティを有する患者さんのことが脳裏に浮かんでくる.

 「あの人,本当にいい人だったけど,いい人は早く神様がつれてってしまうよな」「あの人,最初は本当にいやな患者で,朝起きて “ あ~あ,今日は○○のアポが入ってるんだ,診療室に行きたくねえなぁ ” と思っていたけど,来なくなってホッとしたなぁ」「あの人,最初は俺のこと全く信頼してなくて “ この若蔵が!偉そうに歯医者顔しやがって……”という態度だったけど,どういうわけかもう 35 年,ずっと来てくれていて,今や大親友で会うのが楽しみだよなぁ」

 「こんな何も食えない入れ歯を入れやがって,金返せ!」「いいか皆よく聞け!ここは日本一へたくそ歯科医だ!」と毎日のように来て待合室で大声でどなりちらすババア.でも,なだめすかして入れ歯を4つ作った結果(もちろんタダで),「へたな歯医者が作った入れ歯だけど,いかの寿司を食ってきてやった!」と,かんぴょう巻きの寿司を “ みやげだよ! ” と持って来た,そのババア……等々.思い返すと,本当に,個性豊かなさまざまな患者さんにめぐまれた 40 年だったと思う.

 医療は人が人を診るわけで,個性と個性のぶつかり合いの戦場である.われわれが一生懸命,患者にとって良かれ!と思い施術をしても,全く理解されず,逆にお前が治療したから前より悪くなった!などと「罵詈雑言」を浴びせられることもあるし,「先生は,私にとって本当に神様のような存在です.先生にめぐり会っていなかったら,こんな年まで絶対に生きていられなかった」と毎回,本当に心から感謝してくれるおばあちゃんもいる.

 医者と患者のマッチングが,両者の関係を大きく左右することは自明の理である.

 そして,どんなに努力しても人間関係がうまく構築できない患者がいるのも致し方ないことである.

 われわれにとって一番いやなことは,訳のわからない状態での患者とのトラブルの発生である.理由がわかってのトラブルであれば解決の糸口も見出せるが,こちらが何一つ思い当たるふしもない状態でのトラブルは,われわれが日常臨床を行っていく上での最大のストレスになることは間違いない.

 実は,解決の糸口が見出せないままトラブルが泥沼化し,ストレスで胃が痛くなるような状況を何回か救ってくれたのが,本書の編著者である岡田教授なのである.私が今,こうして診療を続けられているのも岡田先生のおかげかもしれない.失礼な言い方かもしれないが「餅屋は餅屋」,やはり,この分野での造詣の深さが全くちがう.

 われわれの学生時代は「歯科心身症」の教育を全く受けていない.それどころか,その存在すら知らない時代の学生であった.「患者を診てやる!」時代から「患者様を診させていただく!」時代となり,患者さんの意識も大きく変わりつつある.また現代はストレス社会,さまざまなストレスを抱えた患者が来院し,ある面で歯科が,そのストレス発散の場になりつつあるのも事実である.

 本書は,その岡田教授が率いる日本歯科大学附属病院心療歯科診療センターの医員が分担執筆された,診療の現場で日々,個性豊かな患者と接しているすべての歯科関係職種にとって必ず共感が得られる,ストレス解消の一助となる実用書である.スタッフを交えて一読されることを,おすすめしたい!

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