書評『BTAテクニックの臨床』行田克則

HYORON Book Review - 2019/10/16



レビュアー/行田克則
(東京都世田谷区/上北沢歯科)

ラミネートベニアにおける一手法

 BTAテクニックの「BTA」とはBiological Tissue Adaptationの略称であり,「生物学的な歯肉組織の適合」を意味している.著者である坪田健嗣先生は補綴治療において「生物学的にみて,歯肉が補綴物マージンに適合することでシーリング(封鎖)をし,歯垢の付着,細菌の侵入を防ぐため歯周組織を健康に保てるという概念である」としている.長期的な“安定”は補綴処置において最も大事な要素であり,その要であるマージンにおいては理想的な概念といえる.

 著者はBTAテクニックを主にラミネートベニアにおける一手法と位置付け「難しいテクニックではないが,その効果はとても大きい」と述べている.確かにテクニックの概要は,審美性を考慮したうえで電気メスを用いて歯肉を左右対称に整え,唇側の支台歯形成を行った後に印象採得するもので,決して難易度が高いわけではない.そして,「……その効果が大きい」と述べているとおり,長期的に安定した症例を本書で示している.臨床家にとって簡便で効果の大きいものは垂涎の的となる.

生物学的幅径への考察

 しかし,電気メスで歯肉切除を行いマージン設定すると「生物学的幅径」を侵襲するのではないか,という疑念も払拭できない.この点に関して,協力著者の下野正基先生と共にマージンが接する付着上皮(接合上皮)の機能について詳細に言及し,長期的に安定する生体の防御機構についても深く考察しているが,これも本書の特筆すべき点である.

 ちなみに,2017年に行われたアメリカ歯周病学会とヨーロッパ歯周病学会のワークショップで「生物学的幅径は一定不変ということに結論できない」とされたことに鑑みると,本書が接合上皮の重要性に焦点を絞っていることは興味のある点と言えよう.そして著者自身,本書の冒頭でBTAテクニックの10年経過の意外な安定性から「事実は小説より奇なり」と揶揄したような表現を用いているが,その真実は“本書により科学的に立証されてきた”との感は否めないと感服する.

三位一体のコラボレーション

 補綴処置において,すべての症例に適応するテクニックはなく,これはBTAテクニックにおいても然りである.しかし症例を難しく考えることにより,過剰に歯の切削を行い,将来的に歯の喪失に至らしめるような処置をしてはならないことは,歯科医師が意図すべきところである.その点,本書から汲み取れることは,過剰切削を避けるために,術前に十分な診断をするところにあるようである.

 そのためには,歯科医師の診断のみならず,実際に補綴装置を作製する歯科技工士の設計が重要であることも本書から汲み取れる.そして装着後のメインテナンスを考慮し,歯科衛生士の助言が重要となることもわかる.こうした観点から,BTAテクニックによるラミネートベニアの応用は,歯科医療従事者の協力のもと成り立っていることがわかる.

 科学には「絶対」などあり得ない.著者の「事実は小説より奇なり」から始まった科学的考察が巡らす補綴装置マージンへの思いは,ラミネートベニアに限らず,セラミッククラウン,臼歯部への応用へと興味深く展開していく.その思いを,本書を手に取り味わっていただきたい.

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